退職を考えるとき知っておきたい社会保障


  がん経験者が退職する前に押さえておきたいことのひとつに、社会保障があります。

  今回は公的医療保険(健康保険)について
  
  実際どのようなことに気をつけておけばよいのか見ていきましょう。


    *********************************************************************************

      がんと向き合うFP  辻本由香です。

      乳がんになった経験をもとに、

    「がんとお金」「がんと仕事」の講演や個別相談を行っています。    

      ***********************************************************************************************************************

 

    ☆  退職後の公的医療保険(健康保険)を選択する

 

      退職後は新たに健康保険に加入するまで保険証がない状態になるため、
      加入手続きを行わなければ、医療機関を受診しても全額自己負担となります。
      3割負担だったものが、10割負担になると言うことです。

 

      がん患者は定期健診など病院に行く機会が多いので、早めに手続きしておくと安心です。 
      その際は、以下の4つから自分で選択します。

 

      退職後に加入できる公的医療保険


       ① 転職先の企業の健康保険に加入する 

       ② 前職の健康保険を継続する(任意継続)

       ③ 住んでいる市町村の国民健康保険に加入する

       ④ 家族の扶養に入る

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

    転職先の企業の健康保険に加入する

    退職後すぐに新しい職場で働く場合、新しい社会保険の加入手続きを転職先の会社が行います。
    手続き時に「健康保険資格喪失証明書」が必要と言われることもあるため、
    退職する前に前職の担当部署に証明書の発行を依頼しておくと安心です。

 

     ② 前職の健康保険を継続する(任意継続)

       要件を満たせば前職の健康保険に引き続き加入する「任意継続被保険者」になることができます。
       ただし、勤務中は会社が保険料の半額を負担していましたが、退職後は全額自己負担に。

       これは単純計算で健康保険料の負担が2倍に跳ね上がるということです。
       毎月支払うことを考えれば大きな痛手になりますね。

       勤務先によっては在籍中と同様に付加給付が受けられる場合があるので、
       国民健康保険に加入したときと、どちらの負担が少ないかをトータルで計算したうえで
       加入を検討しましょう。

    *付加給付:健康保険組合などが独自に設けている制度で、治療費の一部が支給されます。

 

  ③ 住んでいる市町村の国民健康保険に加入する

    退職者や自営業者を対象とした「国民健康保険」に加入するには、お住まいの市町村役場にて
    手続きを行います。

    国民健康保険は強制適用保険なので、届け出が遅れても加入資格が発生した日までさかのぼって
    加入することになります。

    解雇や倒産、雇い止めなど会社都合で退職した場合は、「保険料の軽減措置」を受けられることが
    あるので、申請時に相談してください。

 

  ④ 家族の扶養に入る

    配偶者(事実婚を含む)や子供などの家族が勤務先の健康保険に加入している場合、
   「扶養条件」を満たしていれば、家族の健康保険の被扶養者となる(家族の扶養に入る)
    選択肢もあります。

    自己都合で退職した場合、7日間の待機期間に加えて3ヵ月間の給付制限があり、
    この期間は失業手当が支給されない期間になるので、扶養に入ることは可能です。

    被扶養者になると保険料の負担がないので助かりますが、
    家族の加入している健康保険によっては待機期間も含めて失業保険の受給期間終了まで
    扶養に入れないこともあります。
    

    そうなると、転職先が決まっていなければ②または③に加入することに。

  

    私は離職時に夫の加入している健康保険組合に問い合わせたところ、
    「約9カ月(7日間 + 3ヵ月 + 受給期間6ヶ月)扶養に入ることができない」と聞き、
    あわてました。


    国民健康保険に加入する場合は、本人が資格喪失後「14日以内」に各市町村で手続きを、
    また任意継続被保険者になるには会社などを退職した日の翌日から
    「20日以内」の申請が必要です。

   
    退職後に再就職の予定がなければ、早めに条件や必要書類を確認してくことをおすすめします。

 

 


  

  がん患者が退職前に知っておきたいこと

 

    1. 加入している健康保険が変わることで、おきる影響

      多数回該当制度が利用できず、治療費負担が一時的に大きくなる

 

    2. 再就職でおきる影響

         傷病手当金は支給停止となる

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

  1. 加入している健康保険が変わることで、おきる影響(多数回該当)

 

   公的医療保険には「高額療養費」という制度があり、医療費の負担が重くならないように
   1ヶ月あたりの上限が設定されています。

   この高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で3月以上あったときは、
   4月目(4回目)から自己負担限度額がさらに引き下げられる「多数回該当」という仕組みがあります

 

              *多数回該当のイメージ:70歳未満で標準報酬月額 28万円~50万円の場合

 

   ただ、この多数回該当ですが、
   転職などで健康保険組合から協会けんぽに移るなど、
   途中で加入する保険者が変わった場合は、変わる前に支給を受けた回数を通算(引継ぎ)できません
    
   

   「ふりだしに戻る」というとイメージしやすいでしょうか。


   新たに加入した健康保険で高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で
   3月以上あった場合に、4月目(4回目)から「多数回該当」となります。

   *任意継続は保険者が変わらないため多数回該当を継続できます。 
   

   抗がん剤治療などで高額の医療費を継続して支払っている場合は、急に負担が増えたことに驚きます。

   前もって家計の見直しをするなどして、治療費の負担増に備えておきましょう。

 

 

  2. 再就職でおきる影響( 傷病手当金)

    会社員(公務員含む)が業務外の病気やケガで会社を休み、事業主から給与がもらえなくなったり
    減給されたりしたときに、加入している健康保険からお金が支給される制度です。

    最長1年6ヶ月にわたって支給されるので、長期療養に備えられる安心感があります。
   *「国民健康保険組合」と記載されている保険証を持っている人は、制度の対象外です。

 

   「退職日まで1年間以上、健康保険に継続加入していたこと」など要件を満たしていれば
   退職後も受給することが可能です。

 

   ただ、退職後の傷病手当金は、いったん仕事に就くことができる状態になった場合や、
   失業保険の申請をした場合は、不支給(打ち切り)となります。

   傷病手当金の支給期間内(最長1年6カ月)に再就職をして、また体調が悪くなったとしても

   支給は再開されませんので、
   主治医に体調や副作用など経過を相談しながら、再就職への道を探りましょう。

 

  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

   ここまで、退職後の健康保険について見てきましたが、
   いずれを選択するのがよいのかは、治療の状況や、現役時代の収入などによりケースバイケースです。

   金銭的なピンチに備えるために、退職が見えてきた段階で検討しておくことが望ましいです。

 

   あとになって、「あー、もっと調べればよかった・・・」と思うことってありませんか?

   ひとりでいろいろ考えることが難しい。
   そんな時は弊社の 個別相談 をご活用ください。

   患者さんやご家族の伴走者として、可能な範囲でサポートいたします。

   

   拙著「がんを生きぬくお金と仕事の相談室」の65ページ、91ページ、105ページにも
   詳しい内容を記載していますので、ご参考になさってくださいね。

    

 

  ************************************************************************************ 

      知識を得ることは、人生を豊かにします。
      皆さまのお役にたちましたら幸いです。

      がんと向き合うFP    辻本由香 

  ************************************************************************************

      許可なく本コラムの内容の複製・転載、および転送を禁じます。
       著作権はつじもとFP事務所に帰属します  ●執筆者:辻本由香       


    「がんを生きぬくお金と仕事の相談室」を河出書房新書から出版しました。

       Amazon→こちらから  

      制度面だけでなく、いろんな角度からお伝え出来ることはないか模索してできた本です。     
      ゲノム医療や妊孕性、気持ちの保ち方などにも触れ、
    「よくあるノウハウ本ではなく、血の通った本」との声をいただいています。